2021年10月17日、よしもと祇園花月で行われた京都国際映画祭で
『遊撃~「多十郎殉愛記」外伝~』が上映され、舞台挨拶が行われました。
今回、映画「多十郎殉愛記」のメガホンを取った中島貞夫監督と、その撮影から公開までを追ったドキュメンタリーを撮影した松原龍弥監督に取材させて頂きました。
★中島貞夫監督★
1934年(昭和9年)生まれ、取材当時87歳。映画監督・脚本家
20年ぶりの長編劇映画である「多十郎殉愛記」の監督。
映画「極道の妻たち」「893愚連隊」「狂った野獣」など様々な傑作を生みだした日本の巨匠。
★松原龍弥監督★
映画『遊撃~「多十郎殉愛記」外伝~』の監督・撮影・編集を担当。
元々「多十郎殉愛記」のメイキングカメラマンとして携わる。
【時代劇はオワコン?!】
Q1. 今の時代に時代劇を作る上で意識したポイント、今後新規の観客を獲得する為の策略は?
▶中島監督:
大東亜戦争の時、日本にはまだテレビがなかったが、戦後外国の映画文化が入ってきたことによって映像の持つ力が全国に広まり、日本の映像の幅が一気に広がった。映画の全盛期であった昭和30年頃から今まで、映画文化は多様に変化しながら発展してきた。
その歴史を踏まえて、これからの映像のあり方を考えていけば、これからの映像文化がもっと良くなると思う。
日本の映像文化の歴史を熱く語ってくださいました。日本の映像文化や時代劇の在り方は、終わりなく常に変化し続けているからこそ若者である私たち自身が考えていかなければいけないんですね!
Q2.間近で中島監督を見ていて松原監督ご自身も時代劇を撮りたくなったのでは?
▶松原監督:
恐れ多いですけど思いますよね。多十郎純愛記の中で牧野監督が演出した多部未華子さんの手の動き、ああいうのは中々出来そうで出来ないものです。興味はあるけど簡単ではないので勉強を踏まえた上で時代劇を作っていくことが大切だと思います。
とても謙虚な姿勢で取材を受けてくださる松原さん。中島監督に対するリスペクトが伝わってきました。多部未華子さんの繊細な心の動きを表現した手の演技は監督の演出力と、役者の表現力がマッチしているのが伝わり私自身もとても印象的でした。
「多十郎純愛記」を観る際には是非注目してほしいポイントです!
【京都国際映画祭、誕生秘話!】
Q3.この映画祭が生まれたきっかけは?
▶中島監督:
元々京都には、東映や松竹、大映など、多くの映画会社の撮影所があって、京都だけで年間100本以上の映画が作られていた。
さらに京都には昔からの伝統工芸の技術を活かして、時代劇で使われる刀や衣装を作る衣装部が沢山あった。だから「時代劇を中心とした映画祭ができないか」という流れで、この京都国際映画祭が作られたんだよ。
京都の伝統文化が、時代劇だけでなく映画業界全体を支えていたんですね…。近年はコロナウイルスの影響を強く受けた映画業界ですが、映画祭を通してこれからも盛り上げていきたいです!
【映画の原点は京都にアリ!? 】
Q4.中島監督は長年京都国際映画祭に携わっていらっしゃいますが、近年、映画祭全体や出品される作品などで変化を感じたことはありますか?
▶中島監督:
この映画祭が誕生した頃に、丁度テレビが生まれててね。時代劇が全国的に放映されて、京都でなければ作ることが出来なかった時代劇が、全国的に広まってしまったんだ(笑)でもこれは時代劇だけのことではなく、時代が変わったことで「映画」自体が、京都だけのものじゃなくなっていったんだ。
今は映画界も大きな変化の真っ只中。こういった背景を知りながら、「なぜ変わってしまったのか」、一方で「これからどのように変化するべきなのか」をきちんと掴まなきゃいけないよ。
初期の日本映画が時代劇から始まったことを考えると、かつては日本映画=京都のものであったという歴史を初めて知りました。今や映画の製作会社はほとんど東京にある中、このような背景を知りながら侍映画を観てみるのも新たな発見がありそうです!
【教えて!映画のプロ!】
Q5.時代劇を観る上で注目してほしいポイントは?
▶中島監督:
時代劇は日本の歴史を映し出している。映像は、政権の移り変わり、庶民や武士の生活など、その時代の変化を映すものだった。
つまりその時代の”流行り”を作っていた。チャンバラもその一つで、チャンバラの流行と同時に阪東妻三郎のような昭和のスターも生まれたんだ。
時代劇はその時代の”流行り”を映し出しているというのは新鮮でした。
時代劇の意外な注目ポイントを教えていただいた所で、映画全般に広げてみるとどういった見方があるのでしょうか…?
Q6.大学生が映画を観る上で将来に活かせる映画の見方は?
▶松原監督:
映画を観る環境、観る人の置かれている状況によって変わってくると思うんです。例えば20代で観る映画と30代になって観る映画は違う。だから一概に観てほしいポイントは言えないけれど、メッセージやテーマだけをぶつけるなら標語にすればいい。
ドラマや映画の作り手は、観終わった時、観客に何が残っているか、どういう感触を与えたいかを常に考えていると思います。
▶中島監督:
悪い奴をどうやって倒すか、悪が大きければ大きい程そのドラマが大きくなる。悪が強ければ強いほど達成感が生まれて面白くなる。ドラマは人間と人間の葛藤やぶつかり合いだ。だから作り手の価値観や人生観の投影の仕方で、面白さが大きく変わってくる。
そういう要素が絡み合う事でドラマを繋いでいるんだよ。
私たちが映画を観る時には、誰といつどんな状況で観るかがとっても大切なんですね!
確かに同じ映画でも好きな人と観た方が面白く感じますもんね! たぶん…
【日本人にとっての「刀」とは】
Q7.「遊撃」というドキュメンタリーの中で、チャンバラの可能性に挑戦するというお話しが気になりました。
▶中島監督:
そもそも、チャンバラというのはただの遊びじゃなくて、刀と刀の切り合いのことなんだ。刀というのはその時代の武士にとって最大の武器であり、命よりも重いものだった。
その刀の使われ方も様々で、「正義のため」「悪のため」など色々な役割があったんだ。
侍映画とは、そういった刀が持つ精神的な部分を表現するものなんだ。だから侍映画では、よく「生きるか」「死ぬか」が描かれるのだと思うよ。
個人的に侍映画はグロテスクなシーンが多いイメージがあったのですが、「侍映画では、「生きるか」「死ぬか」という精神的なものを描いている」というお話があり、とても納得がいきました。「刀は武士にとって最大の武器」…深いです…。
【今、現代人が忘れているのは侍魂…⁉】
Q8.時代劇を通して私たち学生に学んで欲しいこと、学ぶべきはポイントはありますか?
▶中島監督:
まず刀、チャンバラを研究することで日本人の根本的な精神・私生活がよく見えて来る。さらに学生にとっても、そういうものを知った上で歴史を学び、映画を観ると新たな発見があると思うよ。
現代はそういった精神や歴史を忘れている日本人が多いのではないかと個人的に危惧しているんだ。単に映画が面白いという感想を持つのではなく、映画に込められている精神的な部分を感じてほしい。
今回の取材全体を通して、特に「日本の歴史や伝統」「日本人の精神」というお話がキーワードとして沢山出てきました。中島監督は映画を作る上で、「日本人とは何なのか」というのをとても深く研究されている熱意に圧倒されました。
【映画は自宅で…上の世代は怒ってる…?】
Q9.コロナ渦で映画自体が映画館だけで観るものからAmazon primeやNetflixのようなストリーミングで観る形式に変わってきていますが、今後の映画の理想像は?
▶中島監督:
近年は映画との「関わり方」が変わってきている。
時代劇などにある殺陣シーンは映画館で観た方が迫力があって良いけれど、手軽に映画を観てもらえるようになったという面ではスマホで観られる良さもあると思っている。
▶松原監督:
映画館で観ることは体感になっている。観る行為自体が体験になって特別なものとなっている時代だからこそ、僕たちは映画館でどんな映画を提供できるかを考える時代になったと思います。
それはそれでいいことだと思いますね。
ストリーミング形式に対して世代的にネガティブな印象を持っているのではないかと思っていました。しかし意外にも、映画の観られ方の幅が広がったという点でポジティブに捉えられており驚きました。
映画の種類によって観る場所を変えるのも面白そうですね!
かつて映画の街と言われた京都で、その全盛期から多くの作品作りに取り組んできた、中島貞夫監督。さらにその姿を支え、ドキュメンタリー作品として今回の映画『遊撃~「多十郎殉愛記」外伝~』を作られた、松原龍弥監督。今の日本の映画作りの状況を考えながら、京都という風土がまた新たに変化していることが感じられるインタビューでした。
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